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2010年 06月 14日

アキバリバーサイドテラス@神田川

ぼくが勤務している会社の仕事として4年前から関わっていた建築プロジェクトの紹介です。ですので、個人ブログにはあまり詳しくは書けないので概要と水辺に関するポイントのみ紹介させていただきます。
これはアキバ駅前の老朽化した某ホテルの建て替え計画。駅前のT字路の突き当たり、しかも裏には神田川、近くに人道橋、防災船着場、対岸に神社というこの上ない好立地の計画。地図参照。

BPAのような都心の水辺利用を実践するグループに参画している者にとっては願ってもないチャンスである。ご存じの通り、現在都市河川に対して、建物と街は閉鎖的に出来ている。本計画の建て替え前の建物も同様であった。
今回、大手デベロッパーのような護岸改修も含む大規模な計画ではなく、一般的な都市河川沿いの中規模な敷地ではあるが、何か出来ることがあるはずだ。神が与えてくれた大切なチャンスと思い全力で取り組んだつもりだ。
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奥行き2.5m、ガラス手摺の広くて開放的なテラス
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川の対岸に柳森神社。江戸時代から立地している。橋は歩行者専用橋
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駅前T字路突き当り
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2階へ誘導するピロティー
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上記5点 撮影:淺川 敏

僕ら水辺好きにとってはこの敷地から真っ先に思いつくアイデアは下記の点だ
1.護岸を超えた高さにテラスを設置しそれに面して飲食店用テナントスペースを確保しよう。(実現)
2.必然的にテラスの設置階は2階。1階から2階のテラスまで川との出会いをドラマチックに演出できるような動線としよう。1階の道路側にはゆったりとしたピロティーを設け、駅前の喧噪を和らげるセミパブリックな空間を設けよう。(実現)
3.ホテル客室は極力川に向け、水面を眺めやすいように足元から開いた縦長の窓にしよう。(実現)
4.出来れば、将来川沿いに遊歩道が出来たときに表通りと繋がるよう、貫通通路を設けておこう。(実現断念)
5.川に面した照明計画を行い、美しい夜の水辺を演出しよう。(コスト削減により断念)
6.テラスを使いこなせるテナントを誘致しよう。(ノータッチ)
7.リバーサイドの特徴を生かしたホテルの企画
ざっくり、以上のような重要項目が思い浮かんだ。

アキバというクールジャパンを代表する都市の川辺である、本来世界をターゲットにブランディングしなければならない水辺計画のはずだが・・・。
しかも、LEDとネオンギラギラの駅前側とは対照的に神田川の対岸には柳森神社という由緒正しき社が鎮座する神田らしさが残る静かな街区。そしてその横には歩行者専用橋であるふれあい橋があり、喧噪のアキバから静かな神田にワープできる。
この秋葉原の神田川エリアは東京都の観光戦略上重要なエリアである。景観条例により外壁の色やサインの規制、緑化等は指導されているがその他の具体的なルールは設定されていない。これでは建て替え時にまた水辺に閉じた建築が出来てしまう可能性がある。このエリアの建て替えが始まる前にルール化しておかないと手遅れにならないか?建築の建て替え周期は早くて25年だ、この機会を逃すと軽く30年は改善されないこととなる。
肝心なのは、川辺に空間的に開くことなのだが。

この神田川だが、ここより上流の水道橋で日本橋川に分岐しているのはご存じだろうか?
神田川、日本橋川、隅田川を航行すると、ぐるっと一周出来てしまうのです。しかも航行時間は2時間から2.5時間という、クルーズにはちょうど良い長さ。しかもそれぞれの川には特徴的なすばらしい観光コンテンツ?が揃っています。詳細はまたの機会に紹介するとしますが、このコースを予約制でクルーズ出来るツアーもあるのでトライしてみてはいかがでしょうか?ちょうど、このホテルの少し下流側に和泉橋防災船着場があります、JR秋葉原駅、日比谷線秋葉原駅、ヨドバシカメラの目の前という好立地。この桟橋からも乗船できるのではないでしょうか?この桟橋、残念ながら普段は使用不可。もっと開放すればいいのに。千代田区のイベント以外では貸してくれません。
そのほかにも神田川を航行する船舶はある。なんと唯一の定期航路としてBARGE船が航行しているのです。LOB13と同系の尾竹型90tクラス。ボートで曳航してもらうタイプの
正当派艀です。この華奢なサイズは神田川や小名木川など東京の運河を航行できるよう設計されたようです。神田川にはジャストフィットなのです。この艀どこから来てどこへ行くのか?そんなところに関心が出てきたら、運河マニア中級者ですね。上流の日本橋川との分岐点近くの水道橋に千代田区・文京区の清掃事務所があり、収集された産業廃棄物が艀に積み込まれるのです。艀は神田川を下り、隅田川を経由し、豊洲運河から湾岸の最終処分場中央防波堤に向かっているようです。しかも、ちょうどこのホテルの前で下流から昇ってきた空舟を曳航する中型タグボートと、上流から下ってきた満載船を曳航する小型のタグボートが艀の交換をする場所なのです。
要はここより上流は川幅が狭くなるので小型で機動性の良いボートに切り替えることと、すれ違いが出来ないためと思われます。そんな素敵なボートショーを見ることが出来るのだが、残念ながら写真なし。たしか午後一くらいだったと思ったが。今度撮りに行こう。このテラスからそんな貴重なショーを鑑賞しながら午後の紅茶をいただけるのですよ。自画自賛だが奇跡の眺望ですよ。
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橋のたもとに和泉橋防災船着き場が見える
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このテラスだが、奥行きが2.5mもあり長さも2店舗合わせて30mもある大テラスです
4人掛けのテーブル席をゆったり置ける奥行きです。これだけ大きなリバーサイドテラスは都内ではTYハーバーくらいではないでしょうか?
手すりは眺望を妨げないよう強化合わせガラスとしています。怖いくらいの解放感です。
本当は、店舗側もフルオープンのサッシとし内部と一体化出来るとよかったのですが、数々の現実の壁が立ちはだかり諦めました。しかも、デニーズ側は厨房を川側に持ってきてしまいました。厨房がばかでかいのでここしかスペースが無かったのですが・・・。厨房でか過ぎます。普通の飲食店ならこんなことにはなりません。残念。でも僕は期待してますよ、デニーズ葉山店のように大々的に使ってくれることを。

このテラス、駅側の喧噪がウソのような静かな環境です。一つの建築の表と裏でこうも空気が変わるものかと感心します。川風が気持ちいい。これこそが都市のエッジたる都市河川のポテンシャルなのだと思う。川の向こうに柳森神社が迎えてくれるところがすばらしい。向こう側にはいわゆる神田的街並みが続いています。
このように半屋外的で建築と街の中間領域であるテラスやピロティーは建築・店舗・街・水辺をドラマチックにつないでくれるのです。
大阪では2009年の水都大阪に絡めた社会実験、北浜川床プロジェクトとして実験的に実施していた。これは、堂島川に面した北浜エリアの飲食店の川側に、敷地境界線を跨ぎ、公共スペースであるカミソリ護岸の上にテラスを仮設し、店舗機能を拡張しようという試み。既存の店舗に仮設でテラスを設け、安価に川床の環境を体験できるようにした試みだ。週末はすべて予約で埋まってしまう大盛況だったようで、期間を延長して今年度も継続実施している。このような、体験してみないとわからない空間はいくらパースを描いても伝わらないんです。やはりリアルに体感してもらわないと。去年僕も現地を視察しました、これはその時の水都大阪見学レポート。このアキバのリバーテラスはこのような試みを通常の建築法規の中で実現させ、テナントに手間暇かけて営業してもらうというかなり実験的な試みなのです。そこには、一筋縄にはいかない数々の現実がありました。
1.テラスの建設費とその費用対効果(事業者)
2.テラスのクリーニングとメンテナンス。(事業者・テナント)
3.テラスの賃料と天候や季節に左右される使い勝手(テナント)
4.煩雑なサービスオペレーション(テナント)
5.テントや家具などのテナント工事費の発生(テナント)
6.神田川は汚染されていて臭うとの先入観。
7.こんな河川に造っても誰も使わないという先入観
以上のようなネガティブな問題が発生してきましたが、設計側の思いを汲み取ってくれたのか、最終的には事業者様の判断でテラス設置の費用を出していただけました。また、テナント側にもなんとかテラスを使うことで合意いただけました。テラス使用料はどうだったのかは言えませんが、なんとか合意でき嬉しかったです。
結果的に、目標として掲げていた項目も半分以上は実現。テナント選定には設計はタッチ出来なかったな。組織同士のプロジェクトって分業されてしまい、なかなか口出せないんですよね。あと川側のライトアップも当初はブルーのLEDを手すりにライン状に入れる予定だったが・・・コスト削減項目に。
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そんな訳で、何かとハードルが多かったこのアキバのリバーテラスの試みですが、これからが勝負です。テラスはただのデザインではありません。使ってナンボの空間です。そして売り上げに貢献出来なくてはなりません。売り上げがあがり、お金もちゃんと廻っている施設にならないと、次が続かないのです。みんな見てるんですよ。費用対効果はあるのかと。お客さんが使ってないと、周辺に広がっていかずいつまでたっても川は閉鎖的なままとなります。肝心なのはこれからなのですが、企業内設計者は何もできず運営をゆだねるだけという悲しい現実。そんな訳で、無理してでもみなさんに使ってみてほしいです。

【予告】7月10日に神田川・日本橋川一周クルーズを開催します。

by canalscape | 2010-06-14 01:40 | 水辺のレストラン


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