2010年 01月 24日
新年明けましておめでとうございます。今年も水辺特化でぼちぼちやりたいと思いますのでよろしくお願いします。 さて以前より「水辺のレストラン」についてリサーチしてみようと思っており、ぼちぼち記録していたのだが塩漬けになっていた。今年の新企画として徐々にblog upしたいと思う。 「水辺のレストラン」第1回目は品川天王洲のT.Y.HARBOR。天王洲アイルという約22haの人工島の一角に立地している。 天王洲は元々は江戸時代後期に築かれた第四台場があった場所である。今でもシーフォートスクエアに台場の石垣が露出した場所が残っている。再開発が着手される89年までは一大倉庫街であった場所である。 その後高度成長期の生産物流拠点からアメニティー産業への産業転換の動きもあり、85年に天王洲の再開発を推進する「天王洲総合開発協議会」を三菱商事、中川特殊鋼、寺田倉庫など地権者22社で発足させ、民間主導による天王洲アイルの再開発が着手された。時代はいわゆるバブル絶頂期、世間では「ウォーターフロント」や「アーバンリゾート」というキーワードがもてはやされ、工場や倉庫街だった湾岸の再開発計画が目白押しであった。天王洲再開発の中心施設である「シーフォートスクエアー」も、モノレール駅に隣接し当時はやったアトリウムを中心にしたゾーニングでホテル、劇場、ショッピングモール、オフィス、タワーマンションの複合施設でありその時代を象徴したような計画である。水際にはボードウォークを設置し東京のウォーターフロント開発の先鞭となったデザインであった。そのフォトジェニックな景観はドラマや雑誌の撮影にはうってつけのロケーションであった。96年には島の7割が完成したのだが、時代はバブル崩壊の影響を受け、パースに描いた湾岸再開発は停滞気味となる。当初描かれていた海上交通構想は影をひそめ、思ったほどのにぎわいが生まれなかったようだ。それもそのはず当時はモノレールの駅がある他はバスしか交通手段がなく、周辺の再開発も進まなかったことなどから回遊性が生まれず、外部から人が流れてこなかったことが要因のようだ(現在はりんかい線の駅あり)。そんなこともあり、しばらくの間バブルの遺産のような扱われ方もしていた。しかし、小泉内閣による規制緩和処置や経済的に安定していたこともあり2001年頃から、湾岸エリアに巨大マンションが続々と計画され、第2のウォーターフロントブームが訪れた。そしてわずか5年ほどの間に、このエリアの定住人口が急増し、湾岸風景も激変させてしまった。天王洲アイル周辺にも巨大マンションが続々と竣工し、子供からお年寄りまで幅広く開かれた湾岸エリアとなった。しかしもと倉庫街のこのエリア、もちろん商店街もなければ既存のコミュニティーも存在しない。先住民も団地の住人くらいである。そんな既存の都市文化が全く存在しないエリアに急激な人口増加がおこったのだ。 さて本題だが、倉庫をリノベーションした水辺のレストランTYハーバーはこんなエリアに立地している。シーフォートスクエアーなどの大型複合施設とは一線を期した独特の空気感を持った街区を形成している。これは、再開発以前から存在している倉庫をレストランやスタジオ、オフィスなどに転用し、倉庫街として発展してきた天王洲と運河の歴史を継承しているからである。欧米の港湾再開発手法ではロフトリノベーションは当たり前のように実施されているが、スクラップアンドビルドがメジャーな日本では希少な開発手法である。地震が多く高い耐震性が求められることと、土地の値段が異常に高く、代わりに高い容積率を認めている都の方針に合わせると、どうしても新築し高層化しがちなのだが、寺田倉庫は容積率の消化を捨てて、ロフト文化の継承を選択しており文化レベルの高さは大変なものだ。ヨウジ・ヤマモトオフィスなどの高感度なテナントが誘致しているのもそんな企業戦略の一環なのだろう。 景観的にも、水門や優雅な歩行者専用鉄橋ふれあい橋、広いウッドデッキ、運河の交差点もあり、まさに運河の銀座4丁目交差点状態だ。目の前の運河を東京海洋大のカッターが通過したりもする。 またTYハーバーでは、運河に面してゆったりとしたテラス席を多数有しているだけでなく、新人の現代アートの展示も定期的に行っているほか、天王洲エールという地ビールの製造もおこなっている。また、目の前に桟橋があり、船でレストランに訪れることも可能。海外では当たり前にボートでレストランを訪れるが、東京湾でそれが出来るのは、夢の島マリーナと八景島マリーナ以外の単独のレストランではここと芝浦のiju25、横浜新山下のタイクーンコンチネンタル、千葉の保田漁港しか存在しないという大変お粗末な状況のなかで、このサービスは画期的だ。 そしてとどめはアネックスの 水上ラウンジWATER LINEだ。海外の水辺に行くと普通に存在している水上レストランだが、日本ではとんとお目にかかれない、理由は法規制で規制されているからだ。それではなんでTYハーバーはこんな特殊なことが出来たのか? 2000年代の湾岸タワーマンションラッシュによる第2の湾岸開発の機運にのり、東京都は平成17年(2005年)に「運河ルネッサンス構想」を発足。品川・天王洲地区はその第1号モデル地区として認定された。この構想、天王洲地区の特徴である運河を有効に利用できないかというもの。「眺める水辺から使う水辺への転換」である。江戸から高度成長期までは運河は舟運で大賑わいであった。舟運利用の必要が無くなった現在では工事用船舶か屋形舟が航行する以外はほとんど利用されていない。 それでは、土地の所有者が目の前の運河に船着き場を作ったり水上レストランを作ったりすれば徐々ににぎわいが生まれるのではと思う方も多いと思うのだが、現在の法規制ではほぼ不可能であった。運河は道路と同様公共地であるため、都や国の所有エリアであり 水上バスなど公共交通の桟橋のようなもの以外は民間が事業のために水面を使用することは認められていない。屋形舟の船宿などで水上に建築が飛び出しているものがあるが、あれは船の係留同様既得権で、現在では既存不適格建築となっているはずである。建て替えると違法建築となるため、改修を延々と繰り返すしか無いのではと思う。 運河ルネッサンスとは既得権の無い新規の民間事業者が事業のために公共スペースである水面を借りられる規制緩和制度なのである。また、既得権と違い現行法規がしっかり適応されてしまうのがみそだ。開発申請から始まり、建築基準法、消防法、保健所許可はもちろん、船舶安全法、港湾法が合わせて適用されてしまう。地上の法規と水上の法規、船舶の放棄が覆いかぶさってくる。ふたを開けてみると気の遠くなるような官庁協議が発生してしまうようである。前例のないものに対して必要以上に慎重になるのは日本の役所の特徴なので仕方ないのだが、この場合は建築企画課や建築指導課の陸上管轄の部署と港湾局や国土交通省運輸局という水面や船舶を管理している部署にまたがってしまっているのが最大の問題だ。今まで棲み分けがあったところに、文字通り海のもの(船)とも山のもの(建築)とも言い難い計画が持ち込まれると、縦割り社会の中では混乱を引き起こすようだ。白黒つけにくい問題に対しては海側の論理と、陸側の論理を両方満たさなくてはならない羽目になる。そんなことの繰り返しで、設計期間と建設費は膨大な数字となる。そこに費用対効果というバランスは存在しない。水面利用へのロマンと意地だけである。並みの事業者では実行できないシステムだ。ちなみに、レストラン船を係留したまま営業することは禁止されているそうだ。航行していれば「船舶」として扱われ、レストラン船というカテゴリーに入れてもらえる。 係留したままでは、船舶とは言えず、かといって建築にもなれない空間となってしまうそうだ。建築になるためには、国土交通大臣の認定による杭に固定されなくてはならないようだ。もちろん2方向避難とバリアフリー法も適用ですよ。刻々と変化する水位に対して車いす対応のスロープを設置するなんて大変ですね。以上当事者へのヒアリングではなく、この件の記事や論文からの情報なので真意は定かでないが、そんな複雑な経緯を経て水上ラウンジや桟橋が実現しているようだ。物理的にはさらっと出来そうなものだが、法的な調整や遊漁船業者との調整は大変ややこしいらしい。水辺に対する強い信念が無くては実現しなかった食空間だ。こんなことを踏まえて訪れると、よりこの特殊な空間を楽しめると思う。 ちなみに、食事はカリフォルニア系。ちょっと高めだが、味はすごく良かったです。テラス席はいつも外国人でいっぱいです。ピーク時は予約しないと席とれないと思います。 ◆予告 2月7日(土)東京文化発信プロジェクト室主催でこの素敵な水上ラウンジで水辺を使ったアートの可能性についてのトークイベントがあります。BPAもホスト側にて参加します、よろしければご参加ください。 詳細はこちらのHPを参照ください。
by canalscape
| 2010-01-24 23:50
| 水辺のレストラン
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